〜木を見て、ひとを観ることを大切にしていきたい〜
かつて、それぞれの地域で行われていた家づくり。山の製材所では、一本一本の木の性質を見て挽き、適材適所に木取りをし、ほとんどの木を無駄なく使い切りました。
大工もまた、木のくせや乾燥の程度を自分の目で確かめ、樹種に応じて、使う柱や梁の本数、大きさを調べ、発注を行い、そして入手した一本一本の木材の素性、木目、節があるかないかを見極めながら、木と木の継ぎ方を考えていたのです。
そこには一本一本の木と、職人がそれまでに経験を積んできた知識や勘、自らの技術との対話があります。
私たち人間が、手づくりによってできた上質なものに共感を覚えるのは、それは創造する人間の厳しい修練を積んだ高度な手技とともに、その人間の、もの造りに対する真摯な態度を読み取るからではないでしょうか。
建築の部品が、細部にいたるまで商品化され、家そのものも規格化されつつあります。現場で大工がノコやカンナで木材を加工し、部材を一つひとつこしらえることも、めっきり少なくなりました。
規格化されたものは、建物の個性をなくすばかりか、敷地との形状、環境との親和性を最初から失っています。敷地は、一つとして同じものはなく、地形は同じでも方位や環境、そこから見える風景も違い、光の方向、見える風景もまた違うのです。
自由設計・注文住宅の原点にあるものは、住まうひとの個性であり、それと敷地や風景の個性をいかに組み合わせていくか。それらがあって初めて、建物のかたちが生まれ、その体現に職人集団の英知と技術が発揮されていくものなのです。
丸順工務店は、生粋の職人の集まりです。ひとの暮らしの営みを凝視し、自然の本質に敬意を表しながら、一軒一軒の家に生命を吹き込んでいく。こうした思想と技術に裏打ちされた家は、まさしく世界に一つしかない、家となっていくはずです。少なくとも、そう信じてやまない職人たちがここにいます。
家はひとのために在り、風土のなかで生きていく、一つの生命体でもあります。近年の建築過程における工業化・均一化は風土性の喪失だけではなく、住まうひとの個性まで奪ってはいないでしょうか。
古来、私たちの祖先は、いまは伝統構法と総称される木組みで家を造ってきました。それは梁が荷重を支えることができる適切な距離で柱を立て、梁で繋ぐ、あるいは梁を咬み合わせてのせる構法もあります。地域の森から木を与えられ、木の性質を生かしながら架構し、住むひともまた融通無碍に対応しながら、それを美しい空間造形にまで高め、地域とその家族固有の文化を育んできたのです。
造り手はまた、地域の森を生かし、生きものである木を家に再生することで、住むひとの身体に馴染み、風土に違和感にない造形物としての空間を、環境資産として建て続けてきました。
風土を凝視し、気候を検証し、住み手と造り手とが顔を合わせ、敷地に立って初めて求められる「家」とはなにかを考える。これこそが自由設計であり、注文住宅であり、家づくりの第一歩であると、私たちは考えます。
丸順工務店は、遠野に根ざした小さな工務店です。しかし、岩手の一地方から見える家の本質もあります。伝統や文化。ひとの暮らしの営み。森や木。四季の移ろいの機徴。あたりまえの手法。それらを大切に育みながら、一棟一棟の家を心を込めて創り続けていきたいと願っています。